東京高等裁判所 昭和25年(う)4009号 判決
記録を調査すると、原審第二回公判調書には証拠調を終了し、検察官の意見の陳述があつた後に、弁護人が被告人等のため本調書末尾添付の弁論要旨のとおり述べ執行猶予の御判決を賜りたいと述べた旨の記載あること、及び同調書に弁論要旨を記載した書面の添付がないことは所論のとおりである。右公判調書によれば、原審においては右公判期日において証拠調終了後弁護人が被告人のため口頭を以て意見の陳述をし、然る後その陳述の要旨を記載した弁論要旨書を参考のため裁判所に提出したので、立会の裁判所書記官補が同日の公判調書を作成するに際し、弁護人より提出した右書面を調書に添付するつもりで前記のような内容の調書を作成したが、後に右書面の編綴を失念し、これを調書に添付しなかつた事実を認めることができる。従つて右公判期日における弁護人の最終弁論の詳細は前記公判調書によりこれを知ることができないが、すくなくとも弁護人が右公判において直接口頭で被告人のため有利な弁論をした事実が明白であるから、所論のように、原審が弁護人の最終の弁論をきかないで又はこれに一顧も与えず判決をしたとは言い得ないところである。調書末尾に添付すべき書面の編綴を失念し、調書にはこれを添付したもののように引用の記載をしたことは一つの瑕疵には相違ないが、刑事訴訟規則第四十四条第十六号によれば、公判調書には被告人若しくは弁護人が最終に陳述したこと又は被告人若しくは弁護人に最終に陳述する機会を与えたことを記載すれば足り、被告人若しくは弁護人の最終の陳述の内容を逐一記載するを要しないのであるから前記公判調書においても、弁護人が被告人のため最終の弁論をした旨を記載すればそれで充分であり、敢て弁論要旨書の内容を引用する必要がなかつたのである。故に右書面の添付を失念した瑕疵も訴訟手続の法令違反として論ずべきことではない。いづれにしても原審の訴訟手続に法令違反あることを認めることができないから論旨は理由がない。